研究室紹介

「地域経済史」とは?

「地域経済史」という言葉について研究者の間で明確な共通認識があるとは言えませんので、ここでは本研究室が考える「地域経済史」について説明しておきます。

本研究室の言う「地域」とは、農村集落のような”local”な規模から、日本で言えば都道府県レベルの行政単位やそれらが複数集まった規模、また国境を越えた広域な”regional”な規模までの地理的範囲を想定しています。

「経済史」である以上、生産や消費という現象に着目するのは当然ですが、そうした活動に関連する文化や技術、社会、思想などの要素も研究対象として重視します。

研究手法としては、統計や各種公文書、経営資料、メディア資料などの文字資料を用いた「文献史学」だけではなく、聞き取り調査などによる「口述史研究」も取り入れます。

人々の”local”な生活と”regional”な現象や構造がどう関係し合ってきたのかを明らかにすることが「地域経済史」の目的です。

地域を哲学する

「地域経済史」をひとことで言うなら「地域を哲学すること」と言えます。

「哲学(philosophy)」の語源は、philo(愛する)+sophia(知)、つまり「知を愛すること」であり、「哲学」とは「哲学者」の本の中にしかないものではありません。

自分の頭で自ら考えること、そのために必要な材料を自分で探し出すこと、それが「知を愛すること」です。

中山教員の研究の始まりは、「北海道という日本の“はじっこ”に生きるとはどういうことなのか?」という問いでした。

そして、この問いを考えることを通して様々な知見が生まれ続けています。

現代社会の問題に地域経済史がどんな視点を提起できるのか?という点については、以下の論文がわかりやすい例となります。

中山大将「食の〈質〉的貧困と合理性:樺太米食撤廃論から考える食の〈自由〉と食の〈正義〉」『農業史研究』第57号、2023年。
*論文本文: https://doi.org/10.18966/joah.57.0_3
*質疑応答: https://doi.org/10.18966/joah.57.0_39

2025年09月16日

柳田国男の「ルーラル・エコノミー」と「地域経済史」

柳田国男は、日本民俗学の祖として有名な人物ですが、もともとは農政官僚でした。

そして初期には柳田は自分が構想していた学問の名前を「ルーラル・エコノミー」と呼んでいたことがあります。

知の巨人・南方熊楠との往復書簡の中で、この「ルーラル・エコノミー」をめぐって柳田は次のように記しています。

「小生専門はルーラル・エコノミーにして、民俗学は余分の道楽に候。」

「ただ「平民はいかに生活するか」または「いかに生活し来ったか」を記述して世論の前提を確実にするものがこれまでなかった。」

本研究の言う「地域経済史」もこの柳田の言う「ルーラル・エコノミー」に近いと言えると思います。

狭い意味での「経済学」「経済史」ではなく、ひとの生活、ひとの生の営みを歴史学の手法を使って複合的・総合的に研究すること、それを「地域経済史」と呼びたいと思います。

引用文献:飯倉照平編『柳田国男・南方熊楠往復書簡集 下』平凡社、1994年、236、254頁。

2025年08月25日

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